SNSで、AIで生成した画像をあたかも自分が撮った写真のように見せる投稿が注目を集めています。
「いいね」や称賛が欲しい、優れた撮影者として見られたい、バズりたい。
こうした動機は誰にでも少なからずありますが、AI時代の環境はそれをさらに増幅します。
本記事では、難しい専門用語はかみ砕きつつ、なぜ人は“AI写真”を本物と偽ってしまうのか、その心理の働きを整理し、あわせて、私たちができる健全化の工夫もお伝えできればと思います。

なぜAI生成画像を写真と偽って投稿してしまうのか
1) 「仲間に入りたい」「認められたい」という根源的な欲求
人は集団に受け入れられたいという強い欲求を持ちます(所属欲求)。
この欲求は、好意的な反応や承認のサイン(いいね・コメント)で満たされます。
そのため、注目を得やすい“完璧な絵”を掲げる誘惑が高まります。
心理学では、人の自尊感情が「今、自分は受け入れられているか」を見張る警報機の役割を果たすとも説明されます(ソシオメーター仮説)。
2) 印象マネジメントと“盛れる”オンラインの特性
私たちは日常的に、自分をよく見せるための印象マネジメント(自己呈示)を行います。
SNSはテキストも画像も「選んで・直して・出す」場なので、その傾向が強まりやすい環境です。
オンラインでは、時間をかけて演出した“理想の自分像”が伝わりやすく、受け手も理想化して解釈しがち、という現象が知られています(ハイパーパーソナル・モデル)。
3) 絶え間ない社会的比較とFOMO(取り残され不安)
SNSは、他人のハイライトだけを並べたショーケースになりやすく、私たちは無意識に上には上がいると社会的比較をしてしまいます。
その結果、「他人のすごい写真」に追いつこうとして過剰に盛る、あるいは生成画像に頼る誘因が高まります。
さらに「自分だけ置いていかれるのが怖い」というFOMO(取り残され不安)がSNSの常時接続と“映える投稿”追求を強化します。
4) 「オンライン脱抑制」と“みんなやっている”の錯覚
画面越しの距離感や匿名性はブレーキを緩め、普段ならためらう行為を正当化しやすくします(オンライン脱抑制効果)。
また、タイムライン上で同様の行為を頻繁に見ると、「それが普通(記述的規範)」だと感じ、つい同調しやすくなります。
逆に「それは良くない(命令的規範)」というメッセージが目につけば抑止力になります。

5) つじつま合わせ(認知的不協和の低減)
一度「自分で撮った」と言ってしまうと、嘘をついた不快感を減らすために「これは創作、写真も芸術だし」などと後から理屈づけをして、自分の中で整合性を取ろうとします(認知的不協和)。
これが繰り返されると、行為を修正するよりも正当化のほうが楽になり、境界線が曖昧になります。
6) 一部の性格傾向(自己愛など)が拍車をかけることも
メタ分析では、自己愛的傾向(自分を大きく見せたい傾向)がSNSでの自己演出や過度な利用と小~中程度ながら関連する、と報告されています。
もちろんこれは平均的傾向で、誰にでも当てはまるわけではありませんが、承認を得るための“盛り”行動を後押しする要因になり得ます。

写真と偽ってAI生成画像を投稿することの社会的な問題点
1) 信頼の損失
「これは本当に撮影されたのか?」という疑念が広がると、SNS全体の情報の信頼性が下がります。
特に自然写真や報道写真の領域では、観察記録や歴史的証拠の価値まで揺らぎます。
2) クリエイターへの不公平
時間をかけて実際に被写体を探し、技術を磨き、リスクを負って撮影している人々の努力が「生成画像」に埋もれてしまいます。
これにより、写真文化の健全な発展やプロの生計にも影響が及びます。
3) 誤情報・錯覚の拡散
AI画像は非常にリアルで、野鳥や絶滅危惧種などに関する“誤った生息記録”や“目撃情報”として広まるリスクがあります。
科学的データや地域保全活動にノイズを生み、社会的なコストを高めます。
4) 炎上や分断の加速
「偽っていた」と暴かれたとき、投稿者への強い非難や炎上が発生します。
それは個人の評判だけでなく、同じジャンルの投稿者全体への疑念を招き、コミュニティの分断につながります。

健全化のためにそれぞれができることは?
ユーザー個人の工夫
- 出す前に1分のセルフチェック
「これは事実(撮った/作った)か」「目的は承認だけになっていないか」を自問します。
正直ラベル(#AI生成 #合成 など)を付けると、後からの不協和も起きにくくなります。 - 比較トリガーを減らす
フォロー整理や通知オフで、過剰な社会的比較やFOMOを起こしにくくします。 - プロセスも一緒に楽しむ
完成品だけでなく、制作過程や失敗談を添えると、印象マネジメントの圧力が下がり、共感が増えます。
クリエイター・コミュニティの運営
- 規範を“見える化”する
コミュニティ・ガイドラインに「AI生成は表示」「撮影と生成の区別を尊重」を明記し、固定投稿やピン留めで常に目に入る位置に置きます(規範の焦点化)。
「みんな表示している(記述的)」「表示が望ましい(命令的)」の両方を伝えると遵守が高まります。 - 称賛の基準を多様化
“撮った/作ったの正直さ”“プロセス共有”“検証への協力”など、誠実さに光が当たる表彰やバッジを設けます。
プラットフォームや業界の取り組み
- 正直表示を後押しするUI
投稿時に「これはAI生成ですか?」の軽い確認や、正直ラベルの推奨を出すと、誤情報の拡散が減ることが知られています(正確さのナッジ)。 - 来歴(プロベナンス)を埋め込む
C2PA/Content Credentialsのように、ファイル自体に“いつ・どこで・どう作られたか”の履歴を暗号的に記録する仕組みを普及させると、表示の信頼性が上がります。
対応ツール・機器が増えるほど、撮影と生成の区別が後からでも検証しやすくなります。
AI時代のSNSは、承認欲求・社会的比較・報酬の仕組み・オンライン脱抑制が重なり、盛る・偽る・誘惑が強くなる環境です。
しかし、私たちが正直表示を当たり前にする規範を育て、来歴の見える化を広げ、個人が一呼吸おいて投稿するだけで、景色は大きく変わります。
映えるより誠実に伝える。
その小さな選択が、コミュニティ全体の信頼を守ります。

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【参考文献・サイト】
ソシオメーター理論 – Wikipedia
「ハイパーパーソナルモデル」とは?分かりやすく解説!
FOMOとは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
オンライン脱抑制:構成概念の再考と新たなモデルの提案
認知的不協和とは|事例と対策