春先になると日本にやってきて、軒下などに巣を作り繁殖をして秋に去っていく野鳥、ツバメ。
日本人にとってなじみ深い野鳥のひとつですが、彼らの詳しい生態について考えたことはありますでしょうか。
ツバメは夏鳥のため、秋~冬の間は日本ではなく、東南アジアのフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの国で生活しています。
山階鳥類研究所によると、大阪市で標識を付けた個体が、16日後にフィリピンのバタンで見つかったことがあるそうです。
両地点間の距離は2708キロメートル。1日あたり169キロメートルの距離を飛んでいたわけです。
体重約17g(6Pチーズ一個分くらい)の体のどこにそんな長旅を乗り越えるエネルギーがあるのかと感嘆します。
そんな長距離を渡って日本にやってくるツバメですが、年々初認日(シーズン最初にその種を確認した日)が早まっているそうです。
関東地方では、20世紀中ごろは4月上旬だったのに対し、2021~2022年では3月中旬ごろだったそうで、過去60~70年で半月以上初認日が早まっています。
これはツバメが日本に行くのを楽しみにしていた、からではなく、オスたちの繁殖上の戦略によるものです。
前年つがいだったツバメが、当年も同じ巣に戻って同じペアで繁殖をすることがあります。
特に、「つがいが同タイミングで日本に渡ってきた」「オスがメスより先に日本に渡ってきた」場合はその傾向が強いようですが、「メスがオスより先に日本に渡ってきた場合」は、メスはオスを待ってくれず、別のオスとつがいになってしまうそうです。
メスには産卵や抱卵の負担があり、秋になる前に日本を去らないといけないスケジュールの問題で一刻も早く繁殖を開始したいという事情があるので、メスが薄情というわけではありません。
しかしオスにとっては、長旅を乗り越えたのに繁殖ができないという事態を避けるため、早く繁殖地に到着しようと考え、渡りの時期が早まったようです。
長旅を乗り越えつがいになれたとしても、ツバメの苦労はまだ続きます。
ヒナが産まれると、親鳥はヒナ一羽あたり1日に100匹ほどの虫が餌として必要になるそうです。
巣に5羽ヒナが産まれたとすると1日で500匹の虫が必要なわけです。
大変な重労働ですが、ツバメの狩りの能力にも目を見張るものがあります。
ツバメは大変目が良く、宙を飛ぶミツバチのおしりの針の有無を見分け、針がないオスのみを捕らえることができるほどです。
ツバメはあえて人通りのある場所を好んで巣作りをしますが、それは人間がツバメの天敵であるカラスやヘビを追い払ってくれることを期待しているからだと言われています。
もし近所にツバメが巣を作っていたら、ぜひ温かく見守ってあげてください。
【参考文献】
公益財団法人日本野鳥の会『日本野鳥の会とっておきの野鳥の授業』
公益財団法人山階鳥類研究所『山階鳥類研究所のおもしろくてためになる鳥の教科書』
くますけ『エナガの重さはワンコイン』